スクラッチが起きたらまず何をすべきか
手順は4ステップで固定する
- 「ファウルです」と声に出す。ビリヤードは自己申告が基本のスポーツです。黙って続けるのが一番よくありません。
- キューを引いてテーブルから離れる。次に撞くのは相手なので、場所を空けます。
- 手玉をポケットから取り出し、相手に渡す。自分でテーブルに置かないのがマナーです。置く位置を決める権利は相手にあります。
- 同じショットで的球も落ちたか確認する。ここで種目ごとの分岐が始まります(詳しくは後の章で扱います)。
「相手に渡すだけ」で終わらない場合がある
- 14.1(ストレートプール)・ワンポケット・バンクプールは −1点 が付きます(WPA 7.9/12.8/13.9)。
- 8ボールで 8番と同時に落とした場合はそのラックの負け(WPA 4.8(a)、ブレイクショット時を除く)。
- 9ボールでファウルして9番が落ちた場合は、9番だけフットスポットに戻して続行(WPA 5.6)。負けにはなりません。
「スクラッチしたら自分で手玉を置いて再開」は誤りです。手玉を置く権利は相手側にあります。友人同士のハウスルールでない限り、勝手に置き直さないようにしましょう。
なぜスクラッチは起きるのか|主な原因を深掘り

原因1:撞点(手玉のどこを撞くか)
- 引き(下撞き):的球に当たった後、手玉が戻ってきます。サイドポケットが真横にある配置では、戻り道がそのままポケットへ向かうことがあります。
- 押し(上撞き):的球を追って前へ進みます。的球をコーナーに入れると、手玉が同じコーナーへ吸い込まれる形になりがちです。
- ストップ(中心撞き):当たった位置で止まります。落ちるリスクはいちばん低くなります。
原因2:厚み(どれくらい薄く当てるか)
原因3:力加減(手玉の残り走行距離)
原因4:ブレイクショット直後
フォーム面では、両足のどちらかを床に着けたまま構えることも規定されています。遠い球に無理に伸びると、手玉を落とす代わりに別のファウルを犯すだけになりがちです。届かない配置では素直にレスト(機械ブリッジ)を使いましょう。
ビリヤードのファウル・反則にはどんな種類がある?
主なファウルの一覧
| ファウル名 | どんな状態か | よくある場面 |
|---|---|---|
| スクラッチ | 手玉がポケットに落ちる | 引き球・押し球の走りすぎ |
| 手玉場外 | 手玉がテーブルの外へ飛び出す | ブレイクを強く撞きすぎたとき |
| ノーヒット | 手玉がどの的球にも当たらない | 薄い球を外した、狙いがずれた |
| ノークッション | 当たった後、どの球もクッションに触れず、球もポケットに入らない | 軽く撞きすぎたセーフティ |
| 接触ファウル | 体・服・キュー・チョークなどが球に触れる | 手を伸ばして袖が当たる |
| 二度撞き(ダブルヒット) | 1回のショットでタップが手玉に2回当たる | 手玉と的球が近い配置 |
| 押し出し(プッシュショット) | タップが手玉に長く触れたまま押す | 密着した球を撞くとき |
「反則」の重さはほぼ同じ
連続ファウルには追加の罰がある
- 8ボール・9ボール・10ボール・ワンポケット・バンクプールは そのラックの負け(WPA 4.10/5.8/6.10/12.9/13.10)。
- 14.1は −1点に加えて 追加15点の減点+15球の再ラック(WPA 7.11)。
スリーファウルは「ファウルの種類」を問わず合算されます。2回連続でファウルしている場面では、次のショットの安全度を最優先にしてください。
手玉をポケットに落とす反則の罰則は種目でどう違う?
種目別6分岐マトリクス
| 種目 | 根拠条文 | 罰則の種類 | 手玉を置ける範囲 | 同時に落ちた的球 | 即負けになるか |
|---|---|---|---|---|---|
| 9ボール | 5.7/5.6 | ボールインハンド | 盤面のどこでも | 9番のみスポットに戻す | × |
| 10ボール | 6.9 | ボールインハンド | 盤面のどこでも | 戻さない | × |
| 8ボール(通常時) | 4.9 | ボールインハンド | 盤面のどこでも | 戻さない | ◯(8番と同時なら 4.8(a)) |
| 8ボール(ブレイク時) | 4.3 (f)(g)(h) | 範囲限定のボールインハンド | ヘッドストリングより上(キッチン内)のみ | 8番は戻す | × |
| 14.1(ストレートプール) | 7.9 | −1点+範囲限定 | キッチン内のみ | ― | × |
| ワンポケット | 12.8 | −1点+範囲限定 | キッチン内のみ | ― | × |
| バンクプール | 13.9 | −1点+範囲限定 | キッチン内のみ | ― | × |
| ブラックボール | 8.13 | フリーショット1回 | 規定に従う | ― | × |
| (参考)スヌーカー | ― | 罰点加算 | Dゾーン内 | ― | × |
9ボール・10ボール・8ボール通常時:盤面自由
14.1・ワンポケット・バンクプール:減点+キッチン内限定
ブラックボール:フリーショット1回
スヌーカー:罰点として相手に加算
World Pool-Billiards Association (WPA) Rules of Play 2.17 では、スクラッチを「A shot on which the cue-ball is pocketed is called a scratch.(手玉がポケットされたショットをスクラッチと呼ぶ)」と定義しています。3.1 CUE-BALL SCRATCH OR OFF THE TABLE では、手玉がポケットされるか場外に出たショットはファウルと規定されています。(Effective 2025-09-15、PDF公開2026-01-02、全44ページ)
ブレイクでのスクラッチと的球同時落下|ケース別の対処
ケース1:8ボールのブレイクでスクラッチした
- 盤面をそのまま受けて、キッチン内でのボールインハンドから撞く
- 再ラックして自分がブレイクする、または相手にブレイクさせる(4.3(g)(h)の規定に従う)
ケース2:9ボールのブレイクでスクラッチした
ケース3:的球を入れながらスクラッチした
| 状況 | 結果 | 根拠 |
|---|---|---|
| 8ボールで8番を入れてスクラッチ | そのラックの負け(ブレイク時を除く) | WPA 4.8(a) |
| 9ボールで9番が落ちてスクラッチ | 負けにならない。9番をフットスポットへ戻す | WPA 5.6 |
| 通常の的球を入れてスクラッチ | ポケットされた球は戻さない。得点は認められない | WPA 4.9/5.7 |
5秒で処理が決まる判定チャート
- YES → 種目で分岐
- 8ボール:相手はキッチン内でボールインハンド(または再ラック選択)。落ちた8番は戻す。負けではない。〈WPA 4.3(f)(g)(h)〉
- 9・10ボール:相手は盤面自由。落ちた9番はフットスポットへ戻す。負けではない。〈WPA 5.7/5.6〉
- NO → Q2へ
- 9・10ボール → 相手が盤面自由に置く。〈5.7/6.9〉→ Q3へ
- 8ボール → 相手が盤面自由に置く。〈4.9〉→ Q3へ
- 14.1・ワンポケット・バンクプール → 自分は −1点、相手はキッチン内から。〈7.9/12.8/13.9〉
- ブラックボール → 相手のイニング1投目がフリーショット。〈8.13〉
- NO → そのまま相手に交代。処理終了。
- YES → Q4へ
- 8番(8ボール、通常時)→ 撞く人:相手/置く場所:―/球を戻す:―/そのラック負け〈WPA 4.8(a)〉
- 9番(9ボール)→ 撞く人:相手/置く場所:盤面自由/球を戻す:9番をフットスポットへ/負けではない〈WPA 5.6〉
- それ以外の的球 → 撞く人:相手/置く場所:種目に応じて/球を戻す:戻さない/負けではない
ハウスルール(店やグループ独自のルール)が優先される場面もあります。特にブレイク時の扱いは店ごとに差が出やすい部分です。試合前に「ブレイクスクラッチはどう扱いますか」と一言確認しておくと安心です。
スクラッチを減らす具体的な練習方法
ステップ1:手玉の行き先を宣言する(毎ショット)
ステップ2:ストップショットを5球連続で決める
- 的球をコーナーポケットの手前1ポイントに置きます。
- 手玉を的球から30cmほど離して真っすぐ並べます。
- 手玉の中心をやさしく撞き、的球を入れて手玉をその場に止めます。
- 5球連続で止まったら、距離を60cm、90cmと伸ばします。
ステップ3:残り走行距離を半分にする
ステップ4:第1クッションを口に出す
ステップ5:ボウラードでスコア化する
スクラッチ発生源セルフ診断シート|原因別の見分け方
診断シートの使い方
| 発生状況 | 回数(正の字) | 原因別の処方 |
|---|---|---|
| (1) ブレイク直後にコーナー/サイドへ吸い込まれた | ブレイクの立ち位置を10cmずらす。撞点を中心〜わずかに下へ固定する | |
| (2) 引き球が効きすぎてサイドポケットへ | 手玉の残り走行距離を半分にする厚み・撞点設定にする | |
| (3) 押し球で的球を追ってコーナーへ | ストップ球の基礎5球ドリルに戻る | |
| (4) 薄い球ですり抜けて反対サイドへ | 撞く前に手玉の第1クッション位置を口に出す | |
| (5) ジャンプ/キックショットの後 | 出す位置より「落とさない」を優先し、力を1段階落とす | |
| (6) セーフティの力加減ミス | クッション到達までの距離を数えてから撞く |
ボウラードのスコアと一緒に追う
| 回 | 1ゲーム目 | 2ゲーム目 | 3ゲーム目 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 今週 | ||||
| 来週 | ||||
| 4週間後 |
- 〜300点:まずストップショットの安定が課題の段階
- 300〜420点:女子トーナメントプロのテスト基準(420点)が視野に入る段階
- 420〜630点:男子トーナメントプロのテスト基準(630点)を目指す段階
6分類のうち、初中級者は(2)と(3)に集中する傾向があります。どちらも「手玉を動かしすぎている」という同じ原因の裏表です。まずは動かさない撞き方から取り戻しましょう。
予防・再発防止のコツ|二度撞きなど関連反則も一緒に防ぐ
二度撞き(ダブルヒット)を防ぐ
- 手玉と的球の距離が指1本分より近いときは、真っすぐ撞かない。角度をつけるか、撞点を高めにします。
- 押し球を避ける。上撞きで前へ押すと、キューが手玉を追いかけて二度当たりやすくなります。
- 撞いたらキューを止める意識を持つ。振り抜きすぎが二度撞きの主因です。
遠い球は素直にレストを使う
力加減の上限を決めておく
NBAは2026年6月8日付で『ポケットビリヤード競技規定』を改定しました。第6章第9条のファウル規定が見直され、計測時にテーブル上へ置いたキューから手を離してもファウルにならなくなっています。ただし「本改定版ルールの適用開始時期は各団体の判断による」とされているため、出場する大会や利用する店舗の運用を事前に確認してください(公益社団法人日本ビリヤード協会、2026年6月)。
専門家・公的情報の見解|ルールはどの版を見るべき?
WPA(世界プール・ビリヤード協会)
- ワンポケットとバンクプール/ナインボールバンクを公式規則に新規収録
- ダブルスの新ガイドラインを追加
- 「手玉のみのファウル」ルールを廃止し、「すべての球が対象となるファウル」に一本化
- 合法な的球と非合法な的球にほぼ同時に接触して先後が判別できない場合は、合法な的球に先に当たったとみなす
- 意図しないミスキューによる飛び跳ねは通常のミスキュー扱い
- テンボールはセーフティコール廃止、ナインボールは9番をフットスポットに置く方式がデフォルト化
NBA(公益社団法人 日本ビリヤード協会)
- 第6章第9条のファウル規定を見直し。計測時にテーブル上へ置いたキューから手を離してもファウルとならない
- 第7章第5条のレフリー規定を見直し。ファウル以外の理由でボールが動いた場合は復元、ファウルによる的球移動は復元しない。誤ってボールを手に持つとファウル扱い
- ナインボールのスリーポイントルールは、判定基準を「的球の端」から「的球の中心」に変更
適用開始時期については「各団体の判断によるものとします」とされています。(公益社団法人日本ビリヤード協会、2026年6月)
ビリヤード人口は回復傾向
出典を確かめる習慣は、ルール以外でも役立ちます。年号の書かれていないルール解説は、そのまま信じない のが安全です。
やってはいけないNG対応
やりがちなNG5選
- 自分で手玉を置いて続行する。プレー権は相手に移っています。手玉は相手に渡しましょう。
- 申告せずに次を撞く。ビリヤードは自己申告が基本です。黙って進めるのはマナー違反になります。
- 8番と手玉を同時に落として「勝った」と言う。8ボールでは、そのラックの負けです(WPA 4.8(a)、ブレイク時を除く)。
- 9ボールで9番と手玉を同時に落として「負けた」と諦める。9番をフットスポットに戻して続行です(WPA 5.6)。負けではありません。
- 落とすまいとして足を浮かせて撞く。両足が床から離れるのもファウルです。届かない球はレストを使いましょう。
相手のスクラッチにも配慮する
スクラッチした手玉をポケットから乱暴に取り出すと、ラシャ(テーブル表面の布)やクッションを傷める原因になります。ポケットに手を深く突っ込まず、静かに取り出してください。




